お経代わりの朗読を

[和歌山県 男性 88歳]

イラスト  私は当世の僧達が、大学で仏教学を学んで、その道に詳しいが、肝心の「修業」を怠っており、世襲が多く、僧としての内容に乏しく、極楽行きの咒いか切符発行者を渡世にしている体に不満を抱いているので、自分の葬式には僧を、世間はその僧の参列の多少を持って盛儀を伝々したり、参列の僧は、その座の僧達の、袈裟比べを内心している姿や、お布施の多少で、お経が長くなったり、短くなる事に批判していますので、僧は形式的に来てもらうが、唯一人にして、後は自分流にやってみます。但しこれだけでは、世間の口がやかましい当世のこと、遺族が迷惑しますので、この事を遺言状に書き、先ず「本日の葬儀は故人の遺言によって執り行う」と、司会者から葬儀に先だって一言述べさします。経の内容は一般的には、それが漢音で棒読みされるので解る筈がなく、単に極楽行きの呪文のように思えるので飽き足りません。葬儀に一人の僧も無いのは寂しいので菩提寺の僧一人だけ来てもらうだけとします。お経が長いので参列者がうんざりすることが多いので、心経だけとします(摩訶般若波羅密多心経)あとは、生前に最も親しかった友に頼んで、鴨長明の「方丈記」最初の所をゆっくりと朗読してもらいます。
 次に、も一人の親友に、芭蕉の「奥の細道」の書き出しを読んでもらいます。そして時間のあいには、生前愛していた曲をヴァイオリンの独奏をやってもらいます。「トロイメライ」「ユモレスク」2曲です。そのあと、生前に吹き込んでおいたテープで「自分の生前の頂いた友情や当日の参葬の礼を述べ、また遺族への変わらぬ友情をお願いします。そして心経を時々唱え、最後に大きい声で「サヨナラ」を連呼します。また、アメリカの葬儀で見たように、遺体の寝棺の顔の所にガラスをはめてそこで参列者が最後の対面をして、線香の代わりに手に手に小菊を一枚づつ、棺の上に捧げてもらいます。家系の山本主膳康忠が、南紀の一城の主、豪族であった事の誇りを持ち、正しく清く、強く生き抜く事を、信条とするよう、家系をプリントして、子、孫たちに漏れなく配り、私の命日に、それをそれぞれ仏壇の前で朗読するようにしています。また自分の詩集「いろは経」の中の一部を、会食前に全員で朗読するように命じています。骨は両親や弟の墓の中に入れてもらいます。一切の弔花、樒(しきみ)等は予め断り、香典は頂いて、まとめて市内の善意銀行に寄付します。書籍はまとめて、市内の善意銀行に寄付します。これらの事、一切を遺言状に書きこれを実行することが最後の「親孝行」と命じておきます。
 遺産相続は、子孫の名を列記して、それぞれに与える。土地、家屋、価値を明記しておきます。大事にしていた芥川龍之介から貰った手紙は次男へ、南方熊楠の手書きの原稿は長女に与えます。


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