葬儀費用がありません

[東京都 女性 主婦 60歳]

イラスト  今から30年前のことである。私も夫も30才になったばかり。貯金どころか、毎日の食事代にも困る生活。夫はそれまで勤めていた会社が倒産したので、父親の商売を手伝うようになった。ところが、その商売もたいしたことがない時に、父親が具合が悪くなり入院した。覚悟を決めて下さい。会わせたい人がいるのなら今のうちに…と医者に言われ、夫が私を引っ張って行った先が葬儀社屋さんだった。
「えっ、じゃまだ死んでいない親の葬儀を頼みに来たのかい?」人の良さそうな葬儀社屋さんのご主人は目を丸くした。
「ええ、でも死にそうなんです。ところが私達には、お葬式を出すお金がないんです。親には苦労ばかりかけてきたのに葬式もしてあげられないなんて…。それで、お願いがあるんです。後で月賦で返金しますから、今はただで葬式をやってもらう訳にはいきませんか。うちには老いた母親もいます。母親が死ぬ時までには、私も商売をがんばってきっと現金で払いますから」
 これには葬儀社屋も感心して「わかりました。やりましょう」と承知してくれた。葬式も無事に終わり、月賦の支払いに行くと、葬儀社屋さんは笑って「困った時はお互い様ですよ。その代わり、おばあちゃんの時は、2倍いただきますからね」と受け取らなかった。
 お寺も墓もその葬儀屋さんのお世話になった。夫は父親の死を無駄にしないようにがむしゃらに働いてくれた。それから、6年して母親が死んだ時は3倍ものお金を支払って葬儀社屋さんに感謝したのである。


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