2000.01
葬儀場所の変遷

目覚めさせた会館ニーズ

  葬儀場所は時代の変遷によって移り変わっている。結婚式場の場合には若い人の意識 やファッション性を反映して、自宅から冠婚葬祭の結婚式場、ホテル、教会などと大 きく変わっていったが、葬儀の場合には、どのように移行しているのだろう。自宅で の葬儀は住宅事情により、空調設備の完備した葬儀専門会場が使われるようになった 。寺院が多い地域では、寺院を式場とするという傾向もみのがせない。
  葬儀を専用会館で行うことが習慣化されると、葬儀社では葬儀会館を作る調査を始め るようになった。葬儀会館を建てる場合は、地域の習慣や人口動向を把握し、利用者 のニーズに対応できるように設計しなければならない。
  もともと、葬儀は地域の行事として行なわれてきが、地縁社会が崩れて葬儀は葬儀社 が仕切るようになっている。都市部では、通夜と告別式を専門の葬儀会館で行なう例 が多くなった。これは家が狭いといった住宅事情はもちろん、病院で死亡した故人を 、直接葬儀会館に運び込めるといった利便性や、葬儀に合理性や会葬者の配慮を求め る風潮の現れがある。こうした変化は、これまで葬儀会館のない地域でも無縁ではな く、利用率が分らないまま業者が会館を建てると、他社も競って建設し会館での葬儀 が普及したという地域も珍しくない。これまでニーズのなかったところでも、葬儀会 館が会館のニーズを目覚めさせたといってもいい。しかし会館の経営面だけで見ると 、楽でないのは言うまでもないが、「葬儀を会館のあるところにもっていかれては」 という危惧があるのである。

 

会館という言葉

  葬儀専用会館と言えばわかりやすいが、会場の多様化に伴っていろいろな呼び名で呼ばれている。斎場は多く用いられている。しかし、公共の火葬場が火葬場の名前をはばかって斎場という名をつけるケースがあるため、地域によっては斎場を火葬場のことと思っている人も少なくない。またセレモニーホール、メモリアルホールなど、英語で名付けるところも多い。ここでは葬儀会館と斎場を使うが、いずれも葬儀式を行う施設が備えられている場所を指す。

 

「斎場選び」からみた機能

  長年にわたって火葬場の研究を続けている八木澤壮一教授の「斎場選び」の20カ条が、朝日新聞(93.9.14)に紹介されている。1から10は常識的なので、11から9点を紹介すると、

11=いざというときに駆けつけられるか(喪服の更衣室や貸衣装室があるか)
12=ゆったりできるか(ラウンジ、喫茶室、庭園があるか)
13=老人、障害者に心配りがされているか(スロープの有無など)
14=喪家ごとの独立性が保たれているか(専用出入り口、控室など)
15=管理人、裏方にとって使いやすいか(放送、照明設備の使い勝手)
16=物品の移動・保管がスムーズか。
17=清らかな感じがあるか(焼香の排気設備は十分かなど)
18=告別の感動が得られるか(音楽や照明など)
20=葬儀の前や後に十分相談に応じてくれるか(予算や進行、飾り付けなど)

  これらの機能が完備されているという場所は、自宅では考えられない。やはり専門会場が作られると、利用者としてその便利さになれてしまうことが考えられる。

 

葬儀場所別費用は寺院が高い

  東京都生活文化局が96年3月に行った葬儀の調査に、場所別葬儀費用がある。これによると、場所別の費用の最多クラスでみると、寺院が148万円、民営斎場122万円、以下公営斎場120万円、教会102万円、自宅99万円、集会所84万円となる。葬儀費用の総額の平均の最多クラスが137万円ということで、寺院で行った場合は平均より高いということになる。寺院が高い理由はのべていないが、寺院が運営する寺院斎場も含まれ、式場の使用料が加算されているためと思われる。

 

葬儀場所の調査

  社団法人全日本冠婚葬祭互助協会がまとめた、香典に関するアンケートがある。(『十勝毎日』97.6.27)そのなかで、葬儀を行う場所は北海道の場合、専門斎場や公民館が8割を超え、自宅葬儀は3.6%だった。葬儀場所をみると、全国平均では「専門斎場」が52.4%と最も多く、2番目が自宅で28.3%。97年現在で、専門斎場の利用が5割を超えていることになる。葬儀会館の利用率は、将来的には8割に達すると言う説がある。

 

自宅葬の生き残り

  自宅葬は会館葬に押されて段々減少している。しかし、今後死亡人口の増大に伴い、病院の数が不足して自宅の介護・死亡を考慮しなければならなくなっているように、葬儀も自宅で行うということが考えられる。自宅葬はどういう場合があるかを考えてみると、身内だけでひっそりと葬儀を行いたいという場合がある。この場合には、「自宅葬」は1番の選択肢となるだろう。この葬儀が増大した場合、これまでの自宅葬とは異なったコンセプトで、施主と対応することが迫られるだろう。

 

都市部の寺院斎場

  寺院での葬儀はある意味では大変ふさわしいといえる。ただし、寺院建築は吹きさらしであり、構内は板張りのところが多いので、専門斎場に比較すれば機能的に劣るといえる。そこで寺院の敷地の一角に専門斎場を作るケースが増えてきた。寺院が運営する斎場には、規模や設備の面からみて様々なものがある。まず、建物は和風でも内部は使い勝手を考えて洋風というものもある。斎場という名前を使わず、セレモニーホール、多目的ホールというところも多い。葬儀以外の用途に対応できるように設計されている。部屋も間仕切りで仕切られ、いざというときは大きな葬儀も出来るようになっていたりする。
  設備では、遺族控室、法事室、僧侶控室が用意されている。規模では、収容人数百名・会葬者数200〜300名というのが多い。なかには収容人数300名・会葬者数1,500名に対応できるところもある。
  式場の設備は、最新のAV設備が完備されているところから、最低限の設備しかないところまである。仮眠は、5名前後が可能というのが多い。ただし寝具はないことが多い。シヤワーなど入浴設備も、無い所が多い。専用駐車場を所有し、駐車台数は10〜50台が多い。斎場の使用条件は、宗旨宗派に拘らないというところがほとんどである。ただしキリスト教や神道、新興宗教の利用者は少ないためか、利用可能という所は少ない。

 

寺院斎場を建設する際の注意点

  月刊『住職』92年2月では、寺院側に立って寺院斎場を作るにあたってのアドバイスをしている。
(1)料金設定。東京都内にある区立斎場の使用料金は、通夜と葬儀でわずか12,000円。しかも設備は整っている。民間業者の斎場の場合、斎場使用料が無料というケースもある。こうした斎場は今後も増えていくといわれるので、料金を補う何かが、斎場をもつ寺院に求められることになる。
(2)斎場の評判は即、寺院の評価に響く。斎場で葬祭業者に落ち度があった場合でも、苦情などはすベてお寺にくることになる。
(3)葬祭業者とタイアップする場合には、十分に注意しなくてはならない。
  これを読む限り、寺院が斎場を経営するのも大変であることがわかる。

 

寺院斎場と教会葬

  寺院斎場の料金は、まちまちであるが、檀家と檀家以外とを分け、料金を変えているところがある。また宗旨宗派を問わず、他寺の僧侶の使用も可というところが多い。
  キリスト教の信者が死亡した場合には、教会で葬儀を行うことが普通である。教会には祭壇が設置されているので、そのままでも宗教的雰囲気は備わっている。それにキリスト教ではキリストに対する信仰と、魂の救済を重視しているので、教会で葬儀を行うことはふさわしいといえる。しかしキリスト教に属していない人が、ファッションで教会で結婚式を行うように、教会で葬儀をするようにはならないだろう。

 

民間斎場

  民間斎場の多くには、通夜、葬儀、そして初7日法要とお清め(とむらいあげの食事)が出来る設備が整っている。また、ところによっては、仮眠設備が用意されている。民間斎場は互助会、葬儀社だけでなく多業種からの新規参入も取組んでいる。それは、これまでの葬儀のイメージを変え、従業員の意識も遺体に触れるタブーの職業から、ファッション性のある接客業というように変わってきているので、従業員の募集もやりやすくなっている。斎場の存在自体が広告塔の役目を持っているので、葬儀が続く限り、利用される場所となるだろう。
  斎場があれば女性社員を積極的に活用出来るメリットがある。また少人数で運営でき効率もよい。経営する上での他のメリットに、隣組の力が強い地域であっても、斎場の進出により、これまで隣組が采配していた料理の手配や香典返しなどのトータルサービスを行うことが出来るようになり、成長した葬儀社もある。
  ただし、民間斎場では火葬炉を設置していないところがほとんどのため、地域内に火葬炉を併設した公共斎場が進出したら、ワンストップという利便性を考えて、そこに食われるケースもある。

 

民営斎場での建設反対運動

  斎場建設につきものであるトラブルは、住民から反対運動が起き、建築が遅れたり取り止めになったりするケースがある。特に住宅地に進出する場合には、違法駐車問題など地元住民と摩擦が生まれている。公共の斎場(火葬場)の建設に対しても、霊柩車が毎日通ると、気持ちが滅入るという理由から、霊柩車を黒塗りのリムジーンを条件とするという自治体も少なくない。

 

新斎場が相次いでオープン

  3年前の96年に、地元の『苫小牧民報』(96.10.1)に次の記事が出ていた。「苫小牧市内で大型斎場の新設が相次ぎ、葬儀業界に過当競争の兆しが見え始めた。苫小牧に既存する大型斎場は丸松博愛舎(本社苫小牧)が運営する白金町のデイジーフラワーホールと、明野新町の苫小牧市民斎場(本社苫小牧)の2カ所。しかし苫小牧は道内でも『競争が激化していない地区』とみられ、新たな企業の進出も目立っている。冠婚葬祭互助会のべルコ(本社兵庫県)は、10月にJR苫小牧駅北口に葬儀専用ホール『苫小牧シティホール』をオープンし、会員に無料て開放する。
  苫小牧市民斎場では美原町に市内2カ所目の斎場「美原メモリアルホール」を建設中で、12月中旬にオープン予定。また、丸松博愛舎も市内に小規模の斎場を建設し、年内にはオープンする見込みだ。」
  たまたま北海道の記事を取り上げたが、こうした斎場競争の記事は他の地域でも珍しくなくなった。

 

他業種からの葬祭事業に進出

  高齢化社会での死亡者増加というデータに魅力を感じて、斎場経営に新規参入する例も多い。『毎日新聞』(97.6.26)によると、阪急東宝グルーブの阪急メデイアックスは、兵庫県西宮市の阪急西宮北口駅南側に葬祭会館「エテルノ西宮」をオープン。会館は式場7、控室、更衣室などを備え、600台の駐車スペースも。式場、祭壇、まくら飾りなどのセットで50万円からの定額で明朗会計とある。

 

葬儀会館のクラスはどう分類されるのか

  葬儀会館と一口にいっても、宿泊設備が完備で、会葬者が700人収容出来る大型のものから、100人程度収容の個人葬を意識したこじんまりしたものまで様々である。しかしホテルのような豪華な外観をもった大型葬儀会館も沢山造られている。これらは社葬などの大型葬儀を意識したものであるが、投資額が大きいだけに利用の有無が大きな問題となる。また社葬はホテルなどに流れるケースもあり、今後造る大型葬儀会館のコンセプトはむずかしいものとなりそうだ。
  大型では、99年10月に、オープンしたセレモニーステージ「レクイエム聖殿春日部」がある。これは、東武鉄道のグループ企業である東武セレモニーが開設した葬儀会館のオープニングイベントが99年10月11〜12日に開催され、サービスを開始した。同グループ運営のテニスコート跡地を利用したもの。レクイエム聖殿春日部は、東武鉄道グループの新規事業として開発されたもので、2階建て延床面積3,423平米、最大700人収容の大ホール、350人収容の中ホール2室、小ホール(60人収容)1室。付帯施設も法要室(和室3、洋室2)、親族控室(和室2、洋室1)をはじめ駐車場は200台。大型プロジェクターをはじめ音響・映像・照明など最先端設備が導入されている。
  こうした大型斎場が造られる反面、自宅から葬儀をというコンセプトで造られた葬儀会館が出来てきている。アメリカの葬儀会館は、ほとんどが1階建で自宅から出棺するというコンセプトであるので、アメリカ式と呼んでいいだろう。参列者も多くないので式場も大きい必要がない層に受け入れられそうである。
  民間斎場の使用料は無料(施行料に含む)から20万円代まであり、また一般料金と会員料金に分けられているものがある。

 

公共斎場の変貌

  公共斎場は多くは火葬場を備えており、使用料が安いために、他の地域の住民も利用するというほど人気がある。これから造られる火葬場は、火葬機能の他、通夜・告別式などの会館機能の充実が求められている。現時点で式場を設置していない場合でも、死亡人口の増加に伴って火葬場を計画する場合に、式場を併設することが要求されるようになるであろう。また、初七日法要を営むという利用がなされる他、遠くから来る会葬者のために、仮眠・宿泊施設との併設などが検討されている。さらに、火葬したあとの遺骨の保管までもトータルに用意することも、考えられないことではない。

 

コンサートも開ける公営斎場

  地域住民の反対が多い斎場建設に、斎場らしからぬ明るいイメージで地域の納得をえたのは、91年に完成した埼玉県加須市にある公営斎場「メモリアル・トネ」。外観はコンサートホールがある文化会館と見分けがつかない。
  また苫小牧市民斎場は、95年に社葬や宗教の慣例などを説明した「葬礼録」を作り、契約企業の総務関係者に無料で配布している。資料は約300枚あり、企業が求める部分をピックアップする方式をとっている。すでに契約会社23社に無料配布した。このように公営斎場であっても、それなりに地元住民のためにサービスを考えている。

 

区民葬儀の利用者増大

  東京・特別区の区民葬儀制度を利用する人が増えている。95年度の利用件数は1,654件に達した。通常料金に比べ1割程度安いうえ、制度を利用できる指定葬儀店が増えてきたためという。この制度は区が発行する利用券を持って指定葬儀店に申し込むと、店の協力で葬祭や霊柩車などの料金が割引になる。65年に制度化し、指定業者は区部の葬祭店の3分の1に当たる326店に増えた。

 

ホテル(法宴)が定着?

  ホテルでは法宴という名前で、葬儀や法要を行っている。社葬もホテルで行う例が増えている。ホテルで行うメリット、デメリットを比較すると、無宗教の葬儀であれば全く問題がないし、仏式であっても、焼香を献花などに変更するだけで、充分実行可能なものとなっている。
  すでに『トレンディ』92年2月号に、「東京のホテルオークラ、大阪のロイヤルホテル。東西を代表するホテルの1角を占めるこの両者は、法宴を既に商品化し、専用のパンフレットを作って営業にも力を入れている。とりわけ、東京に比べて企業より個人の宴会の比重が高い大阪は意欲的だ」
  これでわかるように、およそ10年ほど前からニュースにとりあげられてきた。
  同じく92年6月20日の『読売新聞・北九州』にも「福岡市内を中心に都心ホテルでの法事が増えている」という記事が出ている。
  「費用は帝国ホテルでは、料理、飲み物、卓上装花、室料込みで1人2万5千円と2万8千円の2タイプ。それぞれフランス料理と中華料理を選ぶことができる」(『毎日』92年11月18日夕)
  93年5月に『おしん』のモデルにもなったヤオハンの最高顧問、和田カツさんの葬儀・告別式が熱海市のホテル内のコンベンションホールで行われた。この時の参列者は4千人である。千人を超える葬儀の場合には、葬儀専用会場では不可能であろう。
  関西の名門ロイヤルホテルは、95年に宴会部門の売上ダウンをカバーするために、社葬ビジネスに進出した。ホテルでのメリットは
(1)冷暖房完備で、礼服に着替えられる。
(2)駐車場があり、車で来られる。
(3)宗派を問わない。
(4)ホテルスタッフが関西の政財界人の顔、車などを熟知している
…などをセールスポイントにして、市場に参入している。
  ホテルでは遺体を持ち込めないというのが一般にまで普及しない理由となっている。しかし、骨葬の地域、つまり火葬を先に行い、そのあと遺骨で葬儀をする地域ではこの障害はない。しかしその場合でも、ホテルの会場を突然予約出来ないし、ホテルでも前日まで空室のまま待っているわけにはいかない。しかしこの問題が解決できれば、まだまだ伸びる可能性があるだろう。

 

ホール・庭園

  個性のあるお別れの会を開こうとするならば、展示設備のある美術館、音響効果のあるホールなどがふさわしい。ただしこうした会場は食事を取るスペースがないので、あくまで式典だけを重視したい主催者向けとなる。


  このように葬儀式場の多様化が今後ますます進み、それに伴って葬儀内容も多様化するに違いない。そのため、これからの葬儀社は、顧客のニーズに合わせたいくつかのプランをあらかじめもっている必要がありそうだ。(文責/若山)

 

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