1994.05
高齢者と死因

高齢者の死亡原因

  平成4年度の総死亡者数85万6443人のうち、65才以上の死亡者数は約75%の63万8千人。その死亡原因は、1位ガン、2位心疾患、3位脳血管疾患で、この3つで全死因の約6割を占めている。それぞれ15万人、14万7千人、9万8千人の順である。一言で15万人といってもピンと来ないであろうが、65才以上の人のうち毎日410人ガンで死亡している勘定となる。
  65才以上の死亡原因をさらに追っていくと、第4位に肺炎・気管支炎(7万人)、5位老衰(2万3千人)、6位腎炎(1万4千人)、7位不慮の事故(1万4千人)、8位高血圧性疾患(8,500人)、9位肝硬変(7,500人)、10位糖尿病(7千人)となる。このなかで4位までの病気にアプローチしてみたい。

 

通院期間と死亡の関係

  退院した患者(死亡退院も含める)は病院に何日入院していたのかを調べてみると、平成2年9月に退院した患者の平均入院日数は44.9日。高齢者では79.3日と長くなっている。また入院期間が長いほど死亡の割合が高くなっており、入院期間が1年以上の患者はおよそ4割が死亡退院である。

 

死亡原因

  死亡原因を順に見ていくと、1位ガン、2位心疾患、3位脳血管疾患であったが、これらの病気を一つ一つみていくことにする。


(1)ガン

  ガンによる死者は平成3年(1991年)には平成2年に比べ6,300人増加し、22万3千人を超えた。そのうち男性が60%の13万4千人、女性が約9万人の割合である。このうち65才以上の高齢者は64%で14万3千人である。(65才未満が8万人もいることになる!)
  ガンの発生を部位別にみると男性では、胃ガンが3万人(22%)、肺ガンが2万7千人(20%)、肝臓ガン2万4千人(18%)、大腸ガン1万8千人(10%)の順となっている。これに対して女性は胃ガン1万7千人(19%)、肝臓ガン1万4千人(16%)、大腸ガン1万1千人(13%)、肺ガン1万人(11%)の順で、女性特有の乳ガンは6,300人(7%)、子宮ガン4,600人(5%)と、割合としては少ない。これは早期発見が効果をあげ死亡率が低下したのである。

 

●ガンの体験記

  ガンの体験記は何十冊も出版されているが、そのなかでも話題になったのが、昭和63年5月に亡くなられた元検事総長の手記である。ここではガン告知を受けたときの驚きを記している。
  夕方、7時半すぎ、A部長が病室に現れ、淡々と話す。
 「奥さんからもあなたの気性をうかがいましたが、率直にお話しした方がよいと思いますので、すべてをお話しします。あなたの虫垂炎は、開腹してみたら、実は、回盲部(小腸の末端の回腸から大腸の始まりの盲腸にかけて)にできたがんに起因するものでした。そこで、その部分をできるだけ大きく切除しました。そして転移の徴候などを見るために、腹膜などの組織をとって培養検査をしておりましたところ、このほど残念な結果が出ました。すでにリンパ腺と腹膜に転移が始まっています。
  それはともかく、今回の手術に関しては、もう治っていますので、いつでも退院されて結構です。退院後は、私も最善を尽くさせていただきますから、通院してがんに対する手当を続けることにして下さい」
  このような「告知」。平素冷静なつもりの私だが、さすがにA部長の姿が一瞬遠くなったり、近くなったりするのを禁じ得なかった。
  明日退院することにする。が、私ががんだということは、とりあえず、ごく限られた人たち以外には内緒にしておこう。よけいな心配をかけ、波風を立てたくないから。(伊藤栄樹著『人は死ねばゴミになる』新潮社より)


●ガンで死亡した人

  著名人では胃ガンで死亡した人に島木赤彦(歌人、49才)折口信夫(国文学者、66才)大河内伝次郎 (映画俳優、64才)伊藤整(小説家、64才)武田泰淳(小説家、64才)がいる。肺ガンは泉鏡花(小説家、65才)吉井勇(歌人、74才)室生犀星(詩人、72才)吉川英治(小説家、70才)檀一雄(小説家、62才)トニー谷(タレント、69才)鶴田浩二(俳優、62才)花登こばこ(劇作家、55才)青木雨彦(コラムニスト、58才)などがいる。


(2)心疾患

  死亡原因第2位の心疾患は、心筋梗塞や狭心症のような虚血症心疾患や、心不全が含まれる。平成3年の心疾患による死亡数は16万8千人で、全死亡数の20%を占めている。このうち65才以上の高齢者は14万人で83%である。発生早期には不整脈、心不全、心破裂などの合併症をともなうことがあり、死亡率は35〜50%と高い。直接の死因は発生して1〜2時間の不整脈が大半を占めており、病院収容以前に死亡する場合が少なくない。多くの症状として突然に前胸部に激しい痛みが生ずる。

 

●心筋梗塞の体験記

  心筋梗塞に突然襲われ、それから奇跡的に立ち直った手記がある。心筋梗塞の患者の手記は珍しいので、参考になる。
  1988年11月11日、その日は小春日和の快晴で、私はいつものゴルフ練習場に出かけ午後4時半ごろから球を打っていました。ドライバーはとても好調で、気分は最高に盛り上がっていました。残り球はあと10個くらいになって、そろそろ打ちきりにしようと思う頃、突然「みぞおち」のあたりに熱い痛みが走りました。急に吐き気を催し、脂汗が額から胸にかけてジーンと疹み出てきました。目の前が急に暗くなって、私はその場にくずおれてしまいました。
  「みぞおち」をキュッと締めつけられるような痛みは重くて根深く、チクリ、チクリと蜂に刺された痛みに似て、それは今まで経験したことのない痛みでした。
  それでも意識は意外にはっきりしていて、直感的に「胃痛」と思い、「心臓」とは思いませんでした。「このままここで周囲の人たちに騒がれてはマズいぞ」とそんな思考が働きました。
  私は這うような格好でフロントまで行き、努めて平静を装い歯を食いしばる思いで会計をすませ、何が何でも家へ帰り着くまでに倒れてはならぬと、よろけながらも精一杯、喘ぎ喘ぎ自分の車のところまでたどり着きました。(中略)
  なんと発作後16時間も経過していたのです。一晩中、今までに経験したことのない激痛に身も心も疲れ果てて、顔は憔悴し、まなこはうつろで宙に浮き、異様な面持ちで先生の前に出ると、先生は、いきなり、
 「あなたは歩いてここまで来たのですか」
 「今も痛んでいますね」
 と言うなりすぐに心電図を取りながら図面を一べつして、無言のまま、なんとも呆れ果ててじれったいというより、むしろ腹立たしそうに私を睨みつけました。
 センターでの診断は「急性心筋梗塞」で、即入院「絶対安静」の宣告を受けました。一般に「急性心筋梗塞」は、相当数の人が病院に到着する前に急死する例が多く、入院後4、5日の間が最も危険であると言われています。(『心筋梗塞 助かった患者からのメッセージ』農文協17頁)

 

●大平正芳の死

  昭和55年6月12日、大平首相は心筋梗塞による急性心不全のために死亡した。享年70歳。もともと大平首相は糖尿病を患っており、糖尿病は酒が原因であることが多いが、大平は酒が飲めずその分よく食べたという。料亭政治が慣習化しているわが国では、カロリーの取り過ぎで体調を崩す政治家が多く、糖尿病の政治家も非常に多い。首相も糖尿病から、心筋梗塞を起こしてしまったのである。
  発作を起こしたのは、5月31日で切迫心筋梗塞だった。病院では狭心症と診断され、その後の経過は順調と伝えられた。6月11日には本屋から本を5冊購入させ、それまでのおかゆが御飯にするほどの回復ぶりだった。
  しかし、その日の夜半を過ぎた午前2時25分、首相は突然、上室性、心室性の不整脈から心原性ショック状態と急性心筋梗塞に陥った。医師団は心臓マッサージや電気ショックを施したが、3時間半後の午前5時14分、息を引き取った。解剖の結果、医師は次のような所見を発表した。「冠状動脈は50代か60代前半の若さだった。想像を超える精神的ストレスがかかったのだろう。太い動脈が痙撃を起こして収縮し、血流が止まった」
  入院しても治療に専念できず、さらに病気を悪化させての死亡であった。


●心筋梗塞

  心筋梗塞を起こしてすぐに死亡するケースは全体の3分の1で、瞬間的に死亡するわけではないが、心臓が血液を送り出せない状態が5分以上続くと、脳に血液が行かなくなって脳死状態となる。心臓には3つの冠動脈によって栄養が供給されているが、このうちどれか1本が詰まっても血液が流れなくなり、心臓の筋肉が死んで全身に血液が供給されなくなる。そこで閉塞した冠動脈の血流が再開すれば心筋の壊死が免れるので、治療として再灌流療法が行われている。
  老年者の心筋梗塞の特徴として、老年者ほど無痛性梗塞といわれるように典型的な症状を示さない。心破裂は高齢者に多く、梗塞が始まって3、4日以内が多い。狭心症、心筋梗塞の発作は朝に多く、急性心臓死も朝に多い。これは立ちあがったり、日中の活動に入ることにより交感神経が緊張することが関係しているという。


●心筋梗塞になりやすい性格

  『心筋梗塞 助かった患者からのメッセージ』には、心筋梗塞になりやすい性格を自己判定する質問表が載せられている。これはもともと名古屋第2赤十字病院の循環器内科部長、前田聡先生が「A型傾向判別表」と題して日本経済新聞(1990年3月10日付)に発表したもので、統計的に心筋梗塞に罹った約90%の人がA型と言える人たちであるこという。
  A型行動人間の特徴は、大様なところがなく神経質でイライラ、コセコセして落ち着きがない、負けず嫌い、短気、攻撃的で協調心に欠ける、清潔好き、几帳面等である。
 次の質問に対し、
 「いつもそうである」 2点
 「しばしばそうである」1点
 「そんなことはない」 0点
 のうちから答え、合計点を出す。
 ただし、5、6、9問は得点を2倍して計算する。

1.忙しい生活ですか?
2.毎日の生活で時間に追われるような感じがしていますか?
3.仕事、その他何かに熱中しやすい方ですか?
4.仕事に熱中すると、他のことに気持ちの切り替えができにくいですか?
5.やる以上はかなり徹底的にやらないと気がすまない方ですか?
6.自分の仕事や行動に自信を持てますか?
7.緊張しやすいですか?
8.イライラしたり、怒りやすい方ですか?
9.几帳面ですか?
10.勝ち気な方ですか?
11.気性が激しいですか?
12.仕事その他のことで、他人と競争するという気持ちを持ちやすいですか?
(*右合計17点以上の人はA型行動パターンを持つと考えていい)


●心臓疾患で死亡した人

心筋梗塞には、正力松太郎(実業家、84才)佐藤春夫(小説家、72才)舟橋聖一(小説家、71才)新田次郎(小説家、67才)がいる。
 狭心症には小泉八雲(小説家、58才)菊池寛(小説家、59才)
 急性心不全には金子光晴(小説家、78才)円地文子(小説家、81才)小林一喜(ニュースキャスター、56才)がいる。


(3)脳血管疾患(脳卒中)

  脳血管疾患による死亡は年々減少傾向にある。それでも平成3年の脳血管疾患(脳卒中)による死亡者数は11万8千人で、全死亡数の14%を占めている。このうち65才以上の高齢者は82%で9万8千人であった。脳卒中には一過性脳虚血発作、脳梗塞(脳血栓、脳閉塞)、脳出血、クモ膜下出血が含まれる。
  その中でも高血圧の管理が良くなって来てからは、脳出血による死亡数は年々減少しており、脳梗塞による死亡はここ数年横ばいになっている。またクモ膜下出血による死亡は年々上昇傾向にある。


●脳の血管が破れる脳出血

  脳出血は、脳の血管が何らかの原囚によって破れ、脳内に出血が起こることをさす。その90%以上が「高血圧性脳内出血」で、脳内の細い血管が、高い血圧に刺激されていると、だんだんふくらみ、その周辺がむくんでくる。体の他の部分でそれが起こっても問題はないが、脳は堅い頭蓋骨に包まれているので、頭蓋と反対の方に圧迫され、そのため呼吸や循環中枢のある脳幹部を圧迫して心臓を止めてしまうことがある。これが小動脈瘤である。これががついに圧力に耐えきれなく破裂してしまうのである。
  出血の量が多くなると1日で死亡する。脳出血の原因としては、高血圧によるものが多い。脳の血管に動脈瘤が出来てそれが破裂して起こる場合もある。この動脈瘤は一般に60才を越すと出来やすくなる。脳出血の死亡率は昏睡例では24時間以内で6割以上と高い。
  この高血圧性脳内出血は、脳内でも特に起こりやすいところがあり、60〜70%は被殻というところに起こる。その他は、被殻のそばにある視床、そして小脳、脳幹がそれぞれl0%くらいである。
  出血が起こるのが「発作」だが、発作のは高血圧になりやすい50〜60歳代が多く、暖かいところから、急に寒いところに出た時、入浴の時に寒い脱衣所で裸になった時などによく起こる。高血圧性脳内出血は、発作が起きてから数時間で死亡する恐れがある危険な病気である。


●脳梗塞

  脳梗塞は脳内の血管が詰まる病気で、血管が詰まると脳細胞は死んでしまう。脳梗塞には脳内の血管が動脈硬化を起こして徐々に詰まっていくものと、心臓や頚動脈から血栓が飛んできて詰まる脳塞栓(そくせん)の2種類がある。脳血栓は血管が動脈硬化によってつまり、血流が徐々に悪くなっていくが、脳塞栓の場合には急激に生じる。脳梗塞はそれ自身が死因となることはないが、恐ろしいのはそれが原因で寝たきりになる事である。寝たきりになると脳の活動が低下して、身体の抵抗力が弱まり感染症を起こしやすくなる。脳卒中で死亡する場合には、感染症で死ぬケースが多い。


●クモ膜下出血

  頭蓋骨と脳の間には3枚の膜があり、外側が硬膜、次がクモ膜で、1番内側に軟膜がある。クモ膜と軟膜との間のクモ膜下腔にある血管が破れ、出血した血液がクモ膜下腔に流れ込み、脳を圧迫するのがこの病気である。クモ膜下出血は脳血管障害のおよそ1割であるが、老人では初回の発作で死亡する割合が高い、脳卒中のなかで最も危険な病気である。元プロ野球選手の桑田武(55才)が平成3年1月、映画監督の今井正(79才)が同年11月にこの病気で死亡している。


●脳溢血の体験

高浜虚子(俳人)の場合
  昭和34年4月1日、虚子は朝から1日中自邸の「俳句小屋」で数人の客を相手に日を過し、午後8時過ぎに就寝した。就寝後2時間ほどして、突然うなり声をあげ、家人が駈けつけたときは、すでに意識不明、言語不明瞭、左半身の不全麻痺の状態になっていた。脳溢血であった。
  それから、危篤状態になっては持ち直し、また危篤状態におちるという症状を1週間繰返し、4月8日午後4時、多くの家族や門弟たちに囲まれて、85年の長い生涯をとじた。(資料:高浜年尾『父の病床8日間』)


●脳出血で死亡した人。

  勝海舟(政治家、74才)福沢諭吉(教育家、66才)北里柴三郎(治療医学者、78才)伊藤左千夫(小説家、48才)河口慧海(学僧、79才)出口王仁三郎(宗教家、76才)島崎藤村(小説家、71才)高浜虚子(俳人、85才)種田山頭火(俳人、57才)小林古径(日本画家、74才)田村俊子(小説家60才)水上瀧太郎(小説家、52才)夢野久作(小説家、47才)東海林太郎(歌手、73才)佐藤栄作(政治家、74才)菊田一夫(劇作家、65才)豊田佐吉(発明者、63才)


(4)肺炎

  平成3年(91年)の肺炎・気管支炎による死亡は第4位(7万6千人)で、その92%の約7万人が65才以上の高齢者によって占められている。
  肺炎は明治・大正・昭和初期まで常に死亡原因のトップにあがっていた。しかし昭和30年代に入って肺炎による死亡は急速になくなり、昭和47年に過去最低となった。しかし昭和55年より上昇傾向にある。
  肺炎は健康な人がとつぜん発病するものではなく、脳血管障害、腎不全、肝硬変、ガンなどの基礎疾患がある人にとって、肺炎が起こると致命的になる。ガンでも肺炎で死亡すると死因は肺炎と発表されるので、実際は肺炎以外の病気で入院していた場合が多いと考えられる。
  急性肺炎で死亡した人に堀口大学(詩人、89才)宮沢賢治(詩人、37才)稲垣足穂(小説家、75才)平林たい子(小説家、66才)がいる。

 

老人の急死

  急死は急変してから5分以内の死を瞬間死といい、急変から6時間以内、あるいは24時間以内を急死とよんでいる。老人の急死の原因は心臓、動脈系、呼吸器系、あるいはそれらを制御するシステムに重大な異常が発生した場合に急死する。
 『臨床からみた老人の急死の原因』(『老年医学』91年3月号)によると全死亡に対する急死の頻度をみると、6時間以内の急死では9.6%、24時間以内の急死で17.4%で、ほぼ6人から10人に1人は急死ということになる。
  老年者の急死の背景として、老齢者自身に内在する要因と、老年者が一人暮らしなどによって周囲の認識が遅れ結果として急死に見えやすい環境的要因があるという。老年者に内在する要因として、

(1)心筋梗塞、大動脈解離、大動脈瘤破裂、脳出血などの発生から死亡までが短い疾患が増大する。
(2)老化による代償能力、免疫力、自律機能の低下によって死亡が早まりやすい。
(3)自覚症状が遅くなる。

などの原因がある。

 

救命処置

  救急車で移送した病院では、重症な患者には、脳出血、脳梗塞を問わず救急救命処置が第一に行われる。それには気道、呼吸、血液循環の3つが確保される。生命を維持するには、まず呼吸を行えるようにするため口の吐瀉物を取り、たんを吸引したり、酸索吸入を行う。そして舌がのどに沈下しないよう、あごと首の角度は120度くらいに保たれる。
  呼吸確保と同時に大事なことは、血圧が上昇した脳出血の場合、脳の血流が増加し、脳に水がたまって腫れて頭蓋内圧力が上がり、脳が脊髄の方へ圧迫される脳ヘルニアの危険が生じる場合。また脳梗塞など血液が流れない状態になったりすると、神経細胞が死亡し、それと同時に脳浮腫が現われる。こうした危険がある場合には、浸透圧利尿薬を点滴静注して、脳浮腫を取り除く作業が行われる。

 

長寿のための条件

  アメリカの首都ワシントンDCで、1955年から長生きの人を対象に追跡調査が行われた。調査の対象となったのはすべてが男性で、その結果が1971年に発表された。この研究の結果、長寿のための安全要因は3つあることが推定された。これはそれを紹介した古川俊之著『高齢化社会の設計』中央新書よりの引用である。
 第1は、血圧が低いことである。これまでの常識では、年齢に90を加えた数値が標準血圧値といわれ、歳とともに血圧は上がるのが当然と考えられていたが、調査の結果は常識や標準にかかわりなく、若年と両じ血圧を保つことが長生きの要因であることがわかった。
 第2は、痩せているより少し肥り気味のほうが有利なことである。この点は日本人の脳卒中の発症に関して、肥満傾向がなんら危険因子でないという知見と符合する。
 第3は、タバコを吸わないことである。虚血性心疾患発症の要因として、喫煙はすこぶる不思議な様子を示す。60歳を過ぎると喫煙の心臓への悪影響は次第に減るので、60歳を過ぎるとタバコを吸っても安全ということになる。ただし、これは虚血性心疾患発生の危険性を指していて、肺ガンなどの危険は増し続ける。それにもまして肺・気管支疾患の誘因として、喫煙は見逃せない悪者である。高齢者の死因として、呼吸器疾忠は越えがたい壁と考えられている。喫煙はあらゆる年齢層にとっても危険因子である。
 4番日の長寿因子は、外的世界に対して積極的な関心をもち続けるということである。新奇な出来事にいつも好奇心を燃やし、地域集団やいろいろな人とのコミュニケーションを楽しむことである。悪い言葉で表現すると、でしゃばり爺さん、おせっかい婆さんでいることが長生きの条件である。(87頁)

 

資料

『脳卒中に負けたくない人へ』 小林逸郎著 東洋出版
『高齢化社会の設計』 古川俊之著 中央新書他

 

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